刷るたびに感動するガリ版印刷
子どものころガリを切った経験はないけど、「学級便り」や「小テスト」や「文集」などはガリ版(謄写版)で刷られていた。
うっすら記憶に残っているガリ版に再び出会ったのは、2015年に版画美術館(町田市)で開かれた謄写版講座だった。鉄やすりの上にロウ原紙を置き、鉄筆でガリガリとロウを削っていく地味な作業。これがとても面白くて、講座終了後にネットオークションで印刷機、鉄やすり、ロウ原紙、鉄筆などを落札。申年の年賀状はガリ版で作成した。
その後、朝日新聞の「声」欄で、ガリ版の思い出を綴った投稿を見つけた。記事の最後に「今後使うこともないので処分する」と書かれていた。それなら譲ってほしい!という気持ちがむくっと沸き、新聞社経由で手紙を送ってみた。
投稿者のOさんから届いたメールは、「家族がすでに処分してしまった」という内容だった。
が、それから半年が経った頃、鉄やすりが残っていた、とメールがあり、さらにその1年後、B5サイズのガリ版印刷機が出てきた、とのメールをいただいた。
受け取りのため、Oさんとは2度お会いした。70代のもと小学校教師。小学生のとき尊敬する先生に出会い、教師を志したこと、2代目のガリ版印刷機は色刷り用に求めたこと、毎晩、生徒の絵をロウ原紙に写しイラスト入りのお便りを刷っていことなど、柔和な表情で話してくださった。
ガリ版印刷機は本当によくできているなあと感心する。どこでも持ち運んで刷れるように、スクリーンと刷り台とインクパッドとローラーがコンパクトに収まっている。一枚刷るとスクリーン枠跳ね上がり、紙は次々刷れるように何枚か重ねて挟む仕組みで、作業効率も考えられている。
コピー機やPCプリンタで同じものを大量に一瞬で刷れる時代にあって、刷ってみないとわからないガリ版のワクワク感はたまらない。段ボールにもティッシュにも刷れる。紙を選ばないのも、刷り上がりが微妙に変わるのも、ガリ版のおもしろさ。
手間をかけてできあがるものには、愛おしさが宿る。ガリ版印刷を出して作業をすると、帰宅後にガリ版で刷っていた当時の教師を思う。O先生の生徒に対する愛がわたしの手にも伝わってくる。
monthly journal / Sep.2019